大学は昨日よりも人の数が多くなっていた。遅れて参上した研究課題の泊まり込み組だろうか。
レストハウスは文字通りにレストハウスと化していて、食堂は営業していないが椅子は空いていない。誰も姿勢を正して椅子に座っているものは居らず、だらだらと机に突っ伏しているのが見える。
事務棟の前には昨日病院に搬送されたハズの学科長が居た。思わず「あれ?」と声をあげると、学科長がブンブンと手を振りながら「やぁやぁ、沢渡くん」と声を掛けてくれた。
「学科長。もう腰は大丈夫なのですか?」
「こんな痛みに負けてるようじゃ学科長にはなれないなぁ。ところで見てくれよこれこれ」
そう言いながら学科長が差し出してきたのはうにだまであった。病院の売店の中にあったのだそうで、とても憎たらしい顔をしている。
「非常に可愛らしい顔をしているだろう?」と学科長は言うが、昨日見たたくさんのそれと見分けがつかないほどに憎たらしい。ところで学科長はうにだまを踏みつけて腰を痛めたのではなかったか、帰りしまでうにだまを持ち帰ってくるとはとんでもないうにだま愛である。
「はぁ、そうですね」と適当に相づちを打っていると向こうからおハゲ教授が来たらしく、学科長が「田端く〜ん」とブンブン手を振っている。振り返るとおハゲ教授がギョッとした顔をしていた。
なんだか恐ろしい気配を感じ、その場を退散した。文学部のある一号棟に向かう途中に大きな時計がある。その時計は学校のどこからでも見えるが、止まっていて役に立っていない。近づいてみるとやはり大きいなと感心していると、「沢渡くん、アリスちゃん!」と声をかけられた。青梅さんであった。
青梅さんにもアリスが帰る旨を伝えた。青梅さんは寂しそうではあったが「そっか、帰っちゃうんだね…」とアリスの頭を撫でて、僕や幸津先輩の比にはならないほどに冷静であった。
「明日ひまがあったら高台に来てほしいんだ」と言った時だけはとても不思議そうな顔をしていた。帰ってから気がついたが、よく考えると当然である。青梅さんは従兄弟の家に帰ると思っているに違いなかった。