突然そんなことを言うものだからぽかんとした顔をしてしまった。アリスはとても神妙な面持ちになっている。
「あの男の子のこと、知らないけど、知ってた。沢渡の書いた文章、よく解らなかったけど、解った」
どういうことだろうかと首を傾げていると、アリスは続けた。
「だから、明日に帰らなくてはいけない」
ぽかんとした顔のまま、アリスに幾度も質問を投げかけた。
以下はアリスから聞き取って整理した内容である。
アリスは明日帰らなくてはならない。これは今日でも良いらしい。昨日でも良かったらしい。この家に居られる最も長い日にちが明日だそうである。
あの少年については、遥か遠くに居るところを見たのを思い出したのだそうだ。遥か遠くに見た少年はずっと青白い光りに包まれていて、とても眩しかった。でも近くでその少年を見たことも無かったし、話したこともなかった。なので、少年と出会った時は少しも思い出せなかったと言う。
論文について、アリスは正しいことが書いてあると言った。どうしてかを聞いたが、その根拠については解らないの一点張りである。
ただ論文を解らないながらも読んだアリスは、地球から見てスピカの前周辺が自分の本当の居るべき場所だと気がついたのだそうだ。地球からスピカが赤く見えたのはアリスや少年が居なかったからだと言うのである。
話している最中は、頭の整理が追いつかず、またこぢんまりとした塊に戻りたい気分であった。いっそ大学に行って自分神輿を担がれてしまえばと思いながら、頭の中でわっしょいわっしょいとその想像に逸脱してやまなかった。
「青梅ちゃんにも明日帰るねって言いたい」
「ああ、そうだね」
しかしなんと説明したら良いのだろう。そもそも明日帰ることが決定事項になっているが、まだ納得がいっていない。
「どうしても明日帰るの?」
「明日じゃなきゃ駄目なの」
アリスはカレンダーを見ながら言った。