研究が完成した僕は、夏休み前半を思い出すように部屋でこぢんまりとした塊になった。もうあと十日ばかし、やることはなにもない。大学に赴けばまた課題の完成していない人間から鬼の形相を向けられて神輿のように担がれるに違いない。外は一段と寒くなってきたので、布団をかぶって凌ぐのが一番である。
しかし夏休み前半といまでは様子が違うのだ。こぢんまりとしているところを誰あろうアリスが許してくれなかった。文机の前に掛かった遮光カーテンを勢い良く開き、朝の光を取り入れて僕の身体から布団を剥ぎ取ったアリスは「お腹がすいた!」と言った。
何を隠そう自分も腹が減った。致し方がないので、よろよろとキッチンに立ち、「寒い寒い」とアリスと話しながら簡単に朝食を作る。畳ばかりの部屋なのになぜキッチンの前だけはフローリングになっているのだろうか。足が冷えて仕方がない。
出来た朝食はとても簡単なものだったがアリスは喜んで食べてくれた。昨日までの沈んだような表情は一切なく、笑いながら会話をして明るい顔を見せてくれている。
昨晩アリスが「お母さんを探さなきゃ」と言ったのは冗談だったのかと思えるほどに、部屋にはいつも通りの雰囲気が漂っていた。ごちそうさまをしたアリスは自分のノートに絵を描き始めた。どこかに出かけようと言わなければ、きっとこのままお昼まで描き続けるに違いない。
もう研究課題についてあれこれすることもない。ぼーっとアリスが絵を描いているのを眺めていようかと、再び布団に包まって部屋の隅でこぢんまりとした塊になった。
しばらくはそのままいつも通りの雰囲気であった。布団の暖かさでうとうとしてきた頃にパタンッと勢いのいい音が響いて目を覚ました。頭を上げると僕の顔の僅か近い所で、ノートを両手で閉じているのが確認出来る。