そこに居る人間はどうやら課題に全然手を付けていなかった駄目学生の集まりだったらしく、昨日はつかの間の休息であったようである。ただしその休息が終わるなりみんなで大学に籠って本を開いたり閉じたり、ペンのキャップを取ったり付けたり、頭を抱えたりぼりぼり掻いたりして研究課題をいかにして乗り切るか考えているとのことだ。
夏休みも終盤に差し掛かり、出遅れたなぁと思いながらも紆余曲折を果たし、結果教授の手助けを借りて後は論文に書き起せば完成する程度には研究を重ねてきた僕だから敢えて同期に「阿呆」とだけ言った。
「うっ…」
グサリとダメージを受けたらしき同期はおもむろに体勢を崩しよろめいた。
「だって、だって夏休みは楽しむものじゃないですか…」
うんうんと教室にいる人間が涙をすすりながら頷いた。阿呆の掃き溜めである。バスを降りるなり見た疎らな人影も、他学科の同じような学生だったに違いない。研究の終わってない不届きものは数人は居るだろうとは思っていたが学校いっぱいに居たとはさすがに予想外だった。握手をするのも憚られる。
彼らを放って、適当に開いている席について論文を書き起こす作業を始めた。前に座っている先輩が「おかあさんおかあさん」と泣いているような声を出していて集中するのが難しいが、頑張るしかない。
書いている間、アリスは海側の窓から高い空を眺めていた。水色の空にはふるいに掛けたような雲がうっすらとたなびいていて、悠々と流れて行く。時々鳥の姿が横切って行く。雲とは比較にならないほどの速度で鳥は行き過ぎた。
集中してみるとすすり泣く声やもう駄目だという声がボソボソとあちらこちらから聞こえてくる。段々とそれらも気に留めなくなってきた僕は勢い良く論文を書き上げた。
「出来た」
周囲のことを忘れてその声をあげてしまった。またも視線を独り占めである。アリスもこちらをみてふわっと笑った。