11月 2011
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落ちてきた少女の考察 - あとがき
四ヶ月とちょっと、確か140日くらい、毎日毎日数百字の文章をちょこちょことウェブに上げるだけの行為を繰り返しているうちに、11万と7000字以上にものぼる文章を書き上げていました。物語の9月10日の二番目の話の時に現実世界と同じ時間になってから、いつの間にやら二ヶ月も差をつけられています。なんということでしょう。 思い返せばこの話を作ることになったきっかけは、2011年6月の二週目にR展という絵の展示をした時に遡ります。友人に急に、「空から女の子が降ってきたらどうする?」と言われました。最初は「ラピュタ的ななにかの話かしら」と思ったのだけど、すぐに「ちっちゃな子が!」と念を押されるのです。その友人は別の友人とその話で前日に盛り上がっていたとの事でした。そんなわけでアイデアを文章に起こさせて頂いたお礼をここで申し上げます。本当にありがとう。...
11月 14
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落ちてきた少女の考察 - 9月23日 2
星の観測高台を登りきると、ちゃんちゃんこが階段から真っすぐ行った崖の方に座っていた。こぢんまりとしすぎて本当にちゃんちゃんこしか見えていないが、恐らくあれは幸津先輩で間違いない。 「先輩」 やや遠めから声を掛けるとそのちゃんちゃんこはビクッとした様子であった。下手をすると崖から落ちそうであったが、落ちた所でちゃんちゃんこなら問題なかろう。 恨めしそうに振り向いた先輩は目が赤くなっていて、泣き濡れている様子だった。一体どれほど崖縁で泣いていたのだろうか。幸津先輩のことだから昨日ふらふらと坂を登っていく時からずっと泣き続けていたかもしれない。 「やぁ、みなさんお揃いやないか」...
11月 13
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落ちてきた少女の考察 - 9月23日 1
その日はとても寒い日だった。アリスは昨晩、「一晩中沢渡と遊ぶ」と息巻いたが、年越しを待てなかった子どものように日を跨ぐ前に寝てしまった。 朝はアリスが先に起きていて、窓から外を見ている。あまりに寒いのでまたこぢんまりとした塊になろうとしたら、起きたことに気がつかれて布団を剥がれてしまった。 ぶるぶる震えながら起き上がると、部屋中にアリスの絵がたくさん貼ってあった。見たことある絵も、見たことの無い絵もある。アリスのノートを見ると、大分厚みがなくなっていた。たくさん絵を描いたんだなぁと思いながら部屋中の絵を眺めてみると、お祭りの絵や台風屋台の絵、月の絵やぶどうの絵などアリスが出会ったたくさんの出来事の絵であった。 アリスはお祭りの日に「楽しいことたくさんたくさんありますように」とお願いをしていた。たくさんたくさんの楽しいことに出会えたことは部屋中の絵が教えてくれている。...
11月 12
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落ちてきた少女の考察 - 9月22日 5
大学は昨日よりも人の数が多くなっていた。遅れて参上した研究課題の泊まり込み組だろうか。 レストハウスは文字通りにレストハウスと化していて、食堂は営業していないが椅子は空いていない。誰も姿勢を正して椅子に座っているものは居らず、だらだらと机に突っ伏しているのが見える。 事務棟の前には昨日病院に搬送されたハズの学科長が居た。思わず「あれ?」と声をあげると、学科長がブンブンと手を振りながら「やぁやぁ、沢渡くん」と声を掛けてくれた。 「学科長。もう腰は大丈夫なのですか?」 「こんな痛みに負けてるようじゃ学科長にはなれないなぁ。ところで見てくれよこれこれ」 そう言いながら学科長が差し出してきたのはうにだまであった。病院の売店の中にあったのだそうで、とても憎たらしい顔をしている。...
11月 11
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落ちてきた少女の考察 - 9月22日 4
明日は何かの日だったかな、青梅さんにはなんと説明しようと考えながら外へ出た。 「そうだ、帰るにしても、一体どうやって?」 「あの高台からがいいな」 具体的な帰り方ではなく、場所を伝えられてしまった。 星の観測高台からアリスと月に行ったことがある。月に行ったとき、アリスは遠くの方を見つめていた。ひょっとすると、見ていたのはスピカの方だったのかもしれない。 青梅さんのマンションに行ったが留守だった。大学に居るのかなとアリスと話して、マンションの駐輪場から森の抜け道へ入った。...
11月 10
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落ちてきた少女の考察 - 9月22日 3
突然そんなことを言うものだからぽかんとした顔をしてしまった。アリスはとても神妙な面持ちになっている。 「あの男の子のこと、知らないけど、知ってた。沢渡の書いた文章、よく解らなかったけど、解った」 どういうことだろうかと首を傾げていると、アリスは続けた。 「だから、明日に帰らなくてはいけない」 ぽかんとした顔のまま、アリスに幾度も質問を投げかけた。 以下はアリスから聞き取って整理した内容である。 アリスは明日帰らなくてはならない。これは今日でも良いらしい。昨日でも良かったらしい。この家に居られる最も長い日にちが明日だそうである。 あの少年については、遥か遠くに居るところを見たのを思い出したのだそうだ。遥か遠くに見た少年はずっと青白い光りに包まれていて、とても眩しかった。でも近くでその少年を見たことも無かったし、話したこともなかった。なので、少年と出会った時は少しも思い出せなかったと言う。...
11月 9
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落ちてきた少女の考察 - 9月22日 2
アリスはこちらをじっと見ていた。吸い込まれそうなほどに青い瞳が、少し潤んでいてとても綺麗である。窓から吹き込んでくる風がアリスの髪の毛を柔らかく揺らしていた。 おもむろに立ち上がったアリスは、僕が形成するこぢんまりとした布団の中に飛び込んできた。ただでさえこぢんまりとしている所を、上からぎゅぎゅっと押さえ付けられて、更に自分の身体を凝縮せねばならん事態となった。 布団に凝縮されることなどなんら問題はなかったが、段々とアリスの体温で暑くなってきた。おまけにふわふわとした髪の毛がくすぐったい。いよいよ暑さに我慢が出来なくなってきて、プハッと布団から頭を出すと、アリスがころんと畳に転がった。転がったアリスは天井の方を見上げている。そのままなかなか起き上がらないので何かと思い、アリスの視線の方へ目をやってみると、まるまると太った赤金の金魚が居た。...
11月 8
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落ちてきた少女の考察 - 9月22日 1
研究が完成した僕は、夏休み前半を思い出すように部屋でこぢんまりとした塊になった。もうあと十日ばかし、やることはなにもない。大学に赴けばまた課題の完成していない人間から鬼の形相を向けられて神輿のように担がれるに違いない。外は一段と寒くなってきたので、布団をかぶって凌ぐのが一番である。 しかし夏休み前半といまでは様子が違うのだ。こぢんまりとしているところを誰あろうアリスが許してくれなかった。文机の前に掛かった遮光カーテンを勢い良く開き、朝の光を取り入れて僕の身体から布団を剥ぎ取ったアリスは「お腹がすいた!」と言った。 何を隠そう自分も腹が減った。致し方がないので、よろよろとキッチンに立ち、「寒い寒い」とアリスと話しながら簡単に朝食を作る。畳ばかりの部屋なのになぜキッチンの前だけはフローリングになっているのだろうか。足が冷えて仕方がない。...
11月 7
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落ちてきた少女の考察 - 9月21日 6
結果はぶどうの皮をフィルターにしたように見えるというものである。この劇的なスペクトルの変化が起こりうれば、幸津先輩がスピカを赤く見たことも頷ける。仮説だが、しかし面白い論文が出来た。 大学構内はまだ人の姿があちこちに確認出来た。彼らは今日も大学に泊まって研究を続けるのかもしれない。そうなるとコンビニの売り上げがとてもあがることだろう。 そうだ、店長に寂しがられていたので帰りしなコンビニに寄らなくてはいけないなとおもいながらアリスの方をみると、さっきのふわっとした笑顔は消えてまた一段とどんよりとしていた。海のほうの遥か遠くをやはりジッと眺めている。 「アリス、本当にどうしたの?」 「沢渡、あの男の子は、ちゃんと帰れたのかなぁ」 「あの子か。きっとお母さんを見つけて走って行っちゃったんだよ」 「そっか」と言い、微笑んでアリスは続けた。 「わたしもそろそろお母さんを見つけなきゃ」...
11月 6
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落ちてきた少女の考察 - 9月21日 5
「沢渡の論文を破いてしまえ!」 そう叫んだのは三回生の先輩である。なんと恐ろしいことを言う人かと危険を感じ、とっさに論文をアリスへ投げ渡した。アリスは論文を受けとるや、背後に隠し後ずさりをした。 後輩は泣き喚き、同期と先輩達はわあわあと僕を担ぎ始める。胴上げが始まるのではないかという雰囲気が漂い始めているが、祝賀の念ではなくただの八つ当たりからなる恨みが僕を担いでいるので大学合格以来の胴上げが無いのは知っている。 神輿のようにしばらく為すすべもなく上下させられていると入口のほうから怒声が響いた。 「こら、何をしているのか!」 おハゲ教授の御一喝である。自分神輿から解放された僕は、静まり返ってしまった担ぎ手たちの代わりに経緯を説明する羽目になってしまった。研究課題の論文が完成してうっかり喜んで出来たと言ったら担がれたというのはなんと間抜けな理由だろう。 「沢渡くん、まだ研究出来てなかったの」...
11月 5
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落ちてきた少女の考察 - 9月21日 4
そこに居る人間はどうやら課題に全然手を付けていなかった駄目学生の集まりだったらしく、昨日はつかの間の休息であったようである。ただしその休息が終わるなりみんなで大学に籠って本を開いたり閉じたり、ペンのキャップを取ったり付けたり、頭を抱えたりぼりぼり掻いたりして研究課題をいかにして乗り切るか考えているとのことだ。 夏休みも終盤に差し掛かり、出遅れたなぁと思いながらも紆余曲折を果たし、結果教授の手助けを借りて後は論文に書き起せば完成する程度には研究を重ねてきた僕だから敢えて同期に「阿呆」とだけ言った。 「うっ…」 グサリとダメージを受けたらしき同期はおもむろに体勢を崩しよろめいた。 「だって、だって夏休みは楽しむものじゃないですか…」...
11月 4
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落ちてきた少女の考察 - 9月21日 3
どうも自分でうにだまを地面にこぼして、踏みつけて転んでしまったようである。自業自得といえよう。 救急車を見送った野次馬の散った後にうにだまを拾っていると、おハゲ教授がひょいとうにだまを拾い、渡してくれた。 「いや、参った。これでしばらく私が名実共に学科長ということだね」 「そうですねぇ」 参ったと言いながらおハゲ教授はどこか嬉しそうである。もしかするとうにだまを学科長にうにだまを踏ませたのはおハゲ教授なのではないかと思ったが、そんな恐ろしいことを口にすると単位が危ういので真実を藪の中に放った。 「そういえば、昨晩田端教授に頂いた紙片を解読したのですが、とても有意義なデータでした」 「ガハハ、そうだったかね」...
11月 3
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落ちてきた少女の考察 - 9月21日 2
「そうそう、店長がね、最近沢渡くんコンビニに来ないけれどどうかしたの? って。寂しがってるから後で寄ってあげてね」 そう言って青梅さんはぱたぱたと走って行ってしまった。青梅さんとあったことでアリスが少しだけ笑顔になったような気がする。 そういえば日課であったはずのコンビニへ通うことも日課とは言えなくなっていた。青梅さんのバイトの休みの日を知っていたからというのもあるが、なんだか最近はあちらこちらへ青梅さんたちと一緒に動き回っていたためにコンビニのことなどすっかり忘れていたのが要因である。 三号棟の前に行き着くと疎らにしか見えていなかった学生達が野次馬のように固まっていた。一体どうしたのかと僕とアリスもその野次馬に参加すると、うにだまがころころと地面に転がっていて、その先にはうちの学科長がころころと地面に転がっていた。...
11月 2
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落ちてきた少女の考察 - 9月21日 1
「沢渡くん出来たよ出来たよ」 おハゲ教授がにこにことしながら渡してきたノートの紙片にはびっしりと数字と読み辛い達筆な文字が羅列されていた。解読するのに少し掛かったが、解読してみると僕の研究課題を淡々と完成させてしまっているデータ演算であった。 夏休み最終日に泣きながら親の手を借りて宿題をやる子どもの姿がよくテレビで映されていて、そんな馬鹿なと思ったものだが、まさか教授の力で夏休みの宿題たる研究課題が完成してしまうとは一体どういうことか。間違いないことだが、昨晩は仮説の話をしただけであって、なにも手を貸してくださいと言った記憶はないのだ。 しかしデータがあるのだから利用しようと思う。大学に向かって紙に起こせば課題が出来上がる。...
11月 1
10月 2011
31件の投稿
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落ちてきた少女の考察 - 9月20日 4
僕は教授にガスのフィルターの仮説について話した。研究課題の話であるとはとても言えないが少し話をしただけで、おハゲ教授は「おいおい、なんだいその楽しげな話は。でも座標軸がひょっとするとこっちのほうが…」と言いながら、ガスの発生率や座標についてを静かにノートと対話をし始める。なにかをブツブツつぶやいているが聞き取れない。時々フフッと笑って気味が悪い。一度おハゲ教授がノートに向かうとしばらく自分の世界から帰ってこないことで有名である。教授のノートを覗くものもあるが、大体が蜘蛛の子を散らすように解散した。大変申し訳ないことをしたと心の中で詫びた。...
10月 31
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落ちてきた少女の考察 - 9月20日 3
ドアが開いた瞬間から早くも帰りたいような息苦しい雰囲気だ。この間の殺風景な様子と違って、端のほうでぼんやりと光るものがあり、誰かが居るということや大口径の望遠鏡が中央に薄気味悪く鎮座しているのが薄らとながらすぐに判断出来た。仄暗いその階層のなかは、管理人氏が言っていた通りに結構な人数が居た。全てが天文学科の人間のようである。 わいわいと窓からの風景をみて騒いで居るものがあれば、灯台の壁を伝うむき出しの配線が気になる者も居るらしい。そして大半は大口径の金属に触れながらおハゲ教授の時々ガハハと笑い声の入り交じる大演説を聞いていた。 教授のもとへ近づき、挨拶をすると「やぁ、沢渡くんがビリじゃないかな!」とにこにこと片手を掲げて腹を叩いた。なんと天文学科の人間が全員集まっているのかと周囲を見渡したが、幸津先輩の姿が無いのでまだビリではない。 「見たまえ」...
10月 30
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落ちてきた少女の考察 - 9月20日 2
ぼんやりとアリスを見ていると、アリスの描いた絵がふんわりと浮かんできた。黒っぽい塊がぼわぼわとしたノイズが掛かったように乱れていて、徐々に昇って行く。 僕はその黒っぽい塊を眺めていたが、アリスは意に介さずに手元で絵を描き続けていて、次々にふんわりと絵は浮かび上がる。天井に辿り着いた黒っぽい塊はじゅわっと音を立てて弾けた。僅かに天井に染みのようなものが残ったが、すぐに消えていた。 長い時間そうして黒っぽい塊がぽわぽわと部屋を漂うのを眺めていたが、我に返るともう太陽が沈みかけて夕方になっている。アリスも大分集中していたようで声を掛けるとハッとしていた。 灯台に着く頃には辺りは暗くなっていて、明滅を繰り返す赤いライトが目立って見えた。遅くなってしまったかなぁと思いながら灯台のふもとへ行くと、ガラス張りの窓の向こうに管理人氏が座っていた。 「おひさしぶりです」...
10月 29
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落ちてきた少女の考察 - 9月20日 1
アリスは少年が居なくなった瞬間がよく見えなかったと言った。少年が大人の波に飲まれて行き、その大人達が黄金色に注目してざわついていきながら段々密集を始める。低い位置に視線を凝らしてみるが、青白い光りが目に飛び込んできて、それに併せてざわざわと大人達の密集が解け始めた頃には少年の姿は無かったのだという。 少年のあの「待っているからね」というアリスへの言葉は新しい告白の類だろうか。最近の子どもはませていると大勢の大人がいうが、待っている先のヒントも与えずに何も期待出来ない状態にしたまま颯爽とどこかへ消えて行くとは格好がいい。ちょっと真似をしてみたい。 しかし本当にどこへ行ってしまったのだろうか。親が見つかって駆け出して行ったのなら、それに越したことは無い。無事に家に帰りついていると良い。...
10月 28
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落ちてきた少女の考察 - 9月19日 5
商店街はどこまでも奥に続いているかのようである。アーケードが延々と同じ形で並んでいて、終点がまだ見えない。先輩が言うにはこの商店街は数キロにも及び、所々ある脇出口から脱出せずに終わりまで辿り着いた場合、アーケードをくぐった先がすぐに海なのだという。 「不便やし、海風が真っすぐ商店街通るせいで寒いんや」 先輩が商店街への不満を口にしたとき、タイミング良く前の方からびゅうと風が吹いてきた。ドミノ倒しがはたはたと起こったみたいに、アーケードの中を歩いていた人が順番に風に対して身構えた。先輩は誰よりも小さくまとまり、アリスも少年も「わっ」と横を向いて、続いて僕も風を避けるようにした。...
10月 27
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落ちてきた少女の考察 - 9月19日 4
「先輩、商店街に行ってみませんか。あそこなら人もたくさん居ます」 先輩は穏やかな海の遠くを見ていたようだったが、「うむ」と頷いて反転をした。 川幅がないため急勾配になった橋を半分登りきると、川底がちらりと光ったような気がした。さっきの魚かとおもって橋の欄干に腹を押し当てて光った場所を見ていると、少年とアリスも欄干の隙間から川面を眺めた。幸津先輩は橋の真ん中でまた寒そうに縮こまっている。 太陽の光が川面を反射しているだけだろうか。ちらりちらりと光りはするものの魚影が見えてくることはなく、川は緩やかに海へと向かっていた。 橋の上に居ると静かな海からの風がより冷たく感じる。とうとう我慢出来なくなった先輩は橋を下り始めた。あわや転がりそうなほどに丸く小さくなった先輩のあとを、少年が追いアリスが追う。少し触れば先輩は商店街までの砂利道をころころと転がりそうだった。...
10月 26
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落ちてきた少女の考察 - 9月19日 3
先輩は寒そうに両手で肩の辺りをさすっている。そんなにこの秋の気温で寒そうにしていて越冬出来るものなのだろうか。 「でもここおったんやったら、そんなに遠くの子でもないやろ」 「そうですね。近くに親がいるかもしれません」 歩き回っていれば少年の親が見つかるやもしれない。少年に一緒に行こうと提案すると、青い目でこちらを真っすぐに見てこくりと頷いた。 周囲は穏やかなお昼過ぎを迎えていた。狩り採ったぶどう園にも大学の方へ続く道にも人影は無く物静かである。僕たちは何の考えもなく海の方へと歩いてみた。...
10月 25
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落ちてきた少女の考察 - 9月19日 2
そういえばアリスは何歳なのだろうか。本当は幼稚園などに行っている歳で、今頃は楽しく友人を作って悪さをしている頃なのではないだろうか。かけがえの無い竹馬の友を発見してこの子が大きくなった時に、その友人の結婚式に出席をして友人代表としてスピーチをするのだ。友人はダムが決壊したように涙を溢れさせ、ブーケを投げずにアリスに手渡す。すぐにアリスの結婚の話がやってきて、僕は相手の顔をしげしげと眺め、許しを出すのだ。いや待て、そもそも親は僕なのか。そんなことよりもあの少年を心配するべきではないのか。 我に返った僕は少年の元へ急いだ。坂を下り終えて近づくと、堪えるように肩を震わせながら泣いていた。涙を拭っている緑色のパーカーの袖が濃い色になっている。...
10月 24
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落ちてきた少女の考察 - 9月19日 1
青梅さんに梅の実の袋を置いたことを伝えると、「管理は任せて!」と言っていた。これでチョコレイトをあげることはないはずなので食料問題は任せても良いだろう。 大学に行ってレポートの続きをしがてら紅葉のことについて調べると、梅の木の紅葉は期間が短いということが解った。さすがに昨日の紅葉はいくらなんでも短すぎである。恐らく周囲の木が紅葉したのが錯覚して梅の木まで紅葉したように見えたのだろう。大学から見ると森は綺麗なドーナツ化が進んだ関東一円のように紅葉をしていた。...
10月 23
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落ちてきた少女の考察 - 9月18日 5
あの鹿は昨日見た鹿とは角の形が極端に違う気がする。青梅さんが鹿はたくさんいると言っていたので、別の鹿なのかもしれない。 鹿はゆったりとした動きでこちらへ近づいて来た。鹿も吐息が白く、息が長い。雑草を踏みしめる音が木立に響く。アリスは落とした梅の実を手のひらに置いて「はい!」と言った。鹿が頭を低くしてお辞儀をするように梅の実を器用に口で取り、味を確かめるように丁寧に咀嚼をしていた。 どうやら食べ終えた様子なのに森の方へ戻る気配がなく、少し上を向いてジッとしている。どうしたのだろうかと同じく上の方を見上げると、白い吐息がふわふわと葉っぱに紛れて消えて行く。結構上空まで自分が白いのが目視出来るもんだなあと思ってはぁ〜、はぁ〜っと空に向かって息していると、アリスもはぁ〜と真似をした。アリスの息は次々と生み出されながら、森の木立の合間を縫って上空で消えずに勢力を増した。...
10月 22
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落ちてきた少女の考察 - 9月18日 4
「この梅の実が欲しいんです」 「ああ、それならそうと最初から言わんかね」 どれどれと言って梅の実の袋を軽々しく持ち上げた。達磨が梅干しを作るならうちを買った方が美味いと思うがねとケッケッと笑った。梅酒には自信は無いそうなので梅酒を造るのですと答えた。 袋は達磨が軽々しく持ち上げたその見た目よりも随分と重かった。脂汗がじんわりと額から浮き上がってくる。商店街のアーケードを流れる秋の冷たい風が始めは涼しかったが、やがて寒く感じるくらいになってきた。楽しそうに数歩先を歩いていたアリスがいつもよりも牛歩な僕に気が付いて心配をしてくれた。大丈夫だよと気を張ったが、余り大丈夫ではない。せめて心だけでも森の方へと急がせた。...
10月 21
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落ちてきた少女の考察 - 9月18日 3
それこそは梅の実だ。軒先の漬け物用なのか、梅酒用として売っているのか、袋詰めにして大量の梅の実が置いてあるのを発見した。 目隠しになっている干物を躱すように屈みながら、奥から聞こえてくるテレビの音に耳を澄ませた。人は居るのか。 「すいません」と声を掛けるが一向に返事はない。おやと思いながら乾物屋に侵入を謀った。想像以上にたこ壷は進軍を許さない為の防壁として役立っており、迂回しようとそちらにばかり目を向けていると干物が顔にへちょりと当たった。ナマグサイ! アリスの身長では干物には届かないらしい。たこ壷に一体何が入っているのか気になって背伸びなどをしていたが、ナマグサイ思いをしないで済むのは幸運である。...
10月 20
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落ちてきた少女の考察 - 9月18日 2
幸いにも今朝起きてからは、窓から鹿は見ていないし、鹿が道路に居ると騒いでいる人も居なかった。鹿の様子を見に行こうとアリスと連れ立って外へ出た。お昼頃ともなる時間なのに、寒さを感じる。僕はなにぶんひょろひょろなので、幸津先輩ほどではないが寒さに弱い。冬を人よりも早く察知する能力に長けているとも言える。 アリスに寒いねと言ったが、気候など意に介さない様子であった。子どもは風の子というが、あれは事実である。大人は勘当されてしまったのだというもっぱらの定説だ。 商店街にやって来た。鹿の様子を見に行くにしても、森の奥に居なかった場合のことを、つまり道路にでかかって居た場合のことを考えなくてはならない。またみぞおちに蹴りを入れられるのだけは嫌だ。...
10月 19
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落ちてきた少女の考察 - 9月18日 1
喜ぶべく事に昨日は森から帰ってからというもの、幸津先輩の襲撃などもなく平穏な一日を送る事が出来た。おかげで研究は順調に捗り、なんとか終わりが見えて来たという段階と言っても良いであろう。 研究を進めている間、アリスはまた鹿の絵を描いていた。今度は紙を繋げて大きな紙にすることはなく、何枚も何枚もあの二頭の姿を色んな姿で描いている。アリスのノートは字や絵で色々と埋め尽くされていて賑やかで楽しい。 鹿の近くに描かれたぽわぽわした丸いものは、アリス曰く梅の実だそうだ。鹿の頭上から大量に降り注いでいるように見える。およそ夏場はこんな光景もあったのだろう。食べ物に不自由しない生活というのは幸せな事である。...
10月 18
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落ちてきた少女の考察 - 9月17日 5
さすがに優雅にチョコレイトを食べていた二人もハッとして構えた。 牡鹿が僕目がけて突進をして来たのである。辛うじて突進を躱すと、雌鹿の突進もまた躱す事になった。二頭の突進を躱してお尻を地面に付けていると、鹿は既にこちらへ頭を向けていた。 さっきまでのゆったりした動きが嘘のように、鹿は梅の実を目がけて走ってくるのだ。ぴょいんぴょいんと、全身をバネのように飛び跳ねて速い。追いかけられるという気持ちの焦燥感たるや、精神の四方に壁を作られる気持ちである。 なんとか鹿はぴょいんぴょいんと跳ねつつも、猪突を繰り返すため、躱してはへたり込むを繰り返すことで前に進む事が出来る。 青梅さんはアリスを背負い「頑張って!」とやや遠めからエールをくれていた。 その「頑張って!」の声にも気付かぬ程に躱す事だけに集中をして、踏切を越え、バス停を越えやがて青梅さんの家の前まで辿り着いた。何度へたり込んだ事か。...
10月 17
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落ちてきた少女の考察 - 9月17日 4
昨年との変化を考えて「そういえば今年はもう梅が落ちてないんだよね」と思い出して手をぽんと叩いた。 「梅、全部食べきっちゃったみたい。だから何か食べ物をって思って昨日はチョコレイトを置いておいたのだけれど」 間違いなくそれが原因であろう。鹿というと煎餅を食べるイメージしかないが、生憎煎餅は売っていない。仕方なく森の鹿は大量に落ちている梅を主食に選んだのだろう。チョコレイトは食べられないものだったに違いない。食糧難となった鹿は、飢餓に苦しむ前に森を抜け出したと考えると合点がいった。青梅さんはチョコレイトを食べないなんてと納得しないであろう。 ハート型のお尻をぽわぽわと揺らして、ゆったりとだがさすがに少しずつ距離が離れ始めた。 「梅、お家にあるよ?」 顔を覗き込んできながらアリスが言った。...
10月 16
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落ちてきた少女の考察 - 9月17日 3
「どうしたの? 大丈夫?」 青梅さんが心配して声を掛けてくれて、アリスも背中を撫でてくれた。僕は「大丈夫」と言ったつもりだったが声になっていなかった。やがて痛みが引いてきて、押さえていた腕を解き、鹿を探した。やはりゆったりと歩いているのでそんなには遠くへ行っていない。 「あれ、鹿だ!」と青梅さんはその時初めて気が付いたらしく、驚きの声を発した。 「アリス、説明しなかったの」 「急いで来て! って言ったら、すぐに背負ってくれたよ」 なんという瞬発力だろうかと感心をした。僕なら朝も早い事も相まって、玄関先で二度寝を決め込むに違いない。しかし「どうして出て来たんだろう」と二頭の鹿のゆったりと歩く姿を見て、青梅さんも首を傾げている。 「ご飯はあげてるのになぁ」...
10月 15
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落ちてきた少女の考察 - 9月17日 2
あれは鹿だ。 青梅さんのマンションから通ずる静謐な森の重要な秘密たる鹿が、道路へと出てきている。目についた一頭があんまりに神色自若として闊歩していて気が付かなかったが、遠く後ろからもう一頭別の鹿が歩いている。そちらには角がなく、先にそっちを発見していたら鹿と解らなかっただろう。鹿の雌には角が無いというのを話には聞いた事がある。 アリスも鹿がいる事に気が付いて「あのときの鹿かな」と不安げに漏らし始めた。 この一年間半、道路に鹿が居る所を見た事など無かった。いや、そもそも鹿がこの街にいるという事すら最近知ったくらいである。 僕たちは早々に家を出た。窓から見たとき、鹿は公園の前のバス停あたりをゆったりと歩いていたが、家を出た時には坂をアパートの方に登ってきていた。止めなくてはと、鹿の体を押さえ付けてみたが、我関せずと僕は引きずられた。...
10月 14
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落ちてきた少女の考察 - 9月17日 1
「調べる所はこういうもんやないかも知らんな」という言葉は、過去からのケフェウスのデータを参照にしながら書いていたレポートを見ての先輩の言葉だ。現在データを採取しているのはそのレポートに付加をさせる為のものである。 昨晩、ぶどうの皮をフィルターとして通すと、星が紫色に変光することがわかった。気が付いてみれば地球上ではごく当たり前のことだ。 星間ガスについて調べていた時、かなりのフィルターが掛からなければ、大きくスペクトルを変化させることは難しいと考えていた。では星間ガスの影響で「かなりのフィルターが掛かった場合」はどうだろう。ケフェウス座のデータに仮定として、密度の高い分厚いガスを生じさせてみたら、大きく色が変化してしまう可能性はある。 可能性は無ければ可能性とは言わないと先輩も述べていた。...
10月 13
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落ちてきた少女の考察 - 9月16日 5
やがて一番星がきらりと瞬いた。まだ太陽が沈みきる前に光り始めた一番星は、周囲の星を眠りから醒ますようにつぎつぎに瞬かせた。 月が昇り、いよいよ夜である。 研究の手順は変わらず、小屋の中の大口径の望遠鏡を使い、ケフェウス座の主要星の位置や脈動を調べる。スピカの色が変わったきっかけの糸口を掴もうとしているが、このやりかたが正しいかどうかは、果たしてわからない。 ガーネット・スターは今日も赤いし、アルフィルクはスピカのように青白い。暗黒星雲の分布は補正を掛けなければわからないが、そうそう変わるまい。 二度ほどデータを取って、前のデータと照らし合わせてみた。やはり変わった事もなく、このままでは横に伸びた棒を描いただけのグラフを提出しなければならない。いよいよデータを捨てて、文章をどうねつ造するか考え始める頃あいである。...
10月 12
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落ちてきた少女の考察 - 9月16日 4
「ぶどうの皮を剥いてから食べるのは日本人の文化らしいんだよね。海外の人はそのまま口に運ぶ事が多いそうだよ」 おじさんがにこにこしながらモグモグと喋った。へぇと納得した顔をして青梅さんは皮ごとぶどうの実を口に運んだが、皮を剥いた方が甘い気がするらしい。 「いつでもおいで。暫くなにもないけれど」と最後までおじさんはにこにことしていた。帰り際に大量にぶどうを貰った。食べきれるか心配である。 ずっと開け放たれていた不用心な金網の入り口から、おじさんは見えなくなるまで手を振ってくれた。僕の周りの人は見えなくなるまで手を振ってくれる人が多い。 「コンビニに来るのに、今生の別れみたいだったね」...
10月 11
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落ちてきた少女の考察 - 9月16日 3
「これでぶどうを穫っていくからね」 普段使うより大きなはさみを渡された。にこにことしながらはさみを渡してくるのでなんだか恐い。おじさんはアリスにもはさみを渡そうとしたが、ぶどうまで背が届かなそうなので僕が背負って収穫をさせることにした。 「房の上の部分を少しひねってちょきんとやれば簡単に切れるからね」 ちょきんと一房穫りながらおじさんは言った。とても簡単そうに穫ったので、簡単に穫れるのだと思ったが、実際にやってみるとはさみを何度もちょきちょきと動かす事になった。 おじさんと青梅さんがヒョイヒョイと収穫を進めるので、僕はおまけのようだった。僕が苦戦をして何度もちょきちょきやっていると、アリスがやってみたいと言い、スッと簡単そうに穫った。どうやらぶどうを収穫するコツを僕がつかめていないようだ。...
10月 10
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落ちてきた少女の考察 - 9月16日 2
青梅さんがすいすいと入り口の方へ歩いていく。その後を追ってアリスがついて行った。 どうやらぶどう園の土地主さんが「近いから」という理由でコンビニを良く利用するらしく、そのおかげで青梅さんはぶどう狩りに誘われたそうなのだ。 大学には農学部があり、奥まった部分には畑がある。どうもあれだけでは狭く、このぶどう園とも提携して活動をしているのだと思っていたがそうではないらしい。あちらの教授と比べてうちのおハゲ教授が方々に手を広げすぎているだけなようにも感じるが。 入り口を入るとやはりぶどうの木は背が高くなく、少し腰を屈める形になった。天井に網目状に棒が張られていて、小枝がくるくると絡まっている。森の歩道のようになっていた場所のように、小枝が避ける事で空洞が作られていた。狭い道を悠々とアリスは歩いて探検をしている気分になっているようである。...
10月 9
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落ちてきた少女の考察 - 9月16日 1
いよいよ秋という心地がしてきた。というのも、散々砂浜で遊んで日が沈む頃に「明日ぶどう狩りの日なんだけど、行かない?」と青梅さんが誘ってくれたからである。 課題研究はそろそろ切羽詰まって来たと言えるだろう。次にデータ収集を終えたら、すぐに文章をなんとかねつ造して書き起こさねばならない。海からホシズナの殻を拾って大学で調べていると、今日になっていた。星を観るのはまた夜の早いうちから行おうと思って、遊び疲れて寝ているアリスを背負って帰った。前に背負った時より重くなったなと、成長を喜ぶ父親のような事を考えて家に着いた時には寝ると起きれないのではないかという時間であった。 データを収集しなければならないという事から幸いか、寝たいという事から不幸なことか、ぶどう狩りは朝のうちに終わらせるものらしい。アリスがぶどうとは何かとまたも爛々とした目をしていたので、行くという返事はしていた。...
10月 8
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落ちてきた少女の考察 - 9月15日 4
月の大地のような砂浜を歩きながら、青梅さんに嘘のような月へ行った話をした。 アリスが紙吹雪のようなものではなく、今度はなみなみと注がれた海水を掴んでいる。海水は一時的には掴めたが、すくいあげるとちゃぷちゃぷと音を立てて手からすり抜けて溢れた。その様子が面白いのか、何度も何度も海水を掴んではすくいあげている。 月へ行った話を手短に終えると、「不思議不思議!」と言って青梅さんは喜んだ。 幸津先輩は話を聞きながら、腕組みをしたまま右手の指で砂浜の砂利を拾いころころと転がしていた。また何か考えているらしい。 砂浜は砂利ばかりであるが、さすがに濡れているとそれらが崩れて小さくなった砂が付くようだ。海の方から歩いてきたアリスの足元は砂まみれであった。両手をどんぶりの形にして、海水ではなく砂利をたくさん持って戻ってきた。 「沢渡、これお団子にならないよ?」...
10月 7
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落ちてきた少女の考察 - 9月15日 3
「遠方から通っているのか、それともこの辺に越してきたのか」と言われ、すぐ近くのアパートを借りた事を伝えるとますます嬉々としていた。「毎日来いよ、沢渡くん」とコンビニを出る時には名前を呼ばれたが、一週間もすると「なんだあんたか」と常連扱いを受けるようになったのだ。喜ぶべきかどうか迷った。 大学の付近にはそこにしかコンビニがないため、学内以外での食料調達のために多くの学生が訪れるという。その多くの学生と、卒業生の名前ですら覚えているという噂が立っているので、この店長はなかなかやり手である。だらしない店長の唯一の特技ともいわれている。 そんな店長に忘れられるというのは一体どういう事なのか、かなり悲しい思いに浸っていると、青梅さんが続けた。 「でもね、夕方近くになったら急に『あ、沢渡って言ったら天文学科のほうが先か』って思い出したように、なんだかにやにやしながら言ってきたの」...
10月 6
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落ちてきた少女の考察 - 9月15日 2
砂浜はもくもくと天まで届く夏らしい雲を携えているのに、海風はとても冷たくて秋らしいどころか冬のような気持ちにすらさせる。 地球の海は月のそれとは違い、水がたっぷりと注がれている。紙吹雪のような触れられないものが向こうからたゆたうことはなく、表面で波がざざっと音を立てている。 アリスと青梅さんは寄せて返す波を追ったり、逃げたりしてきゃあきゃあと声をあげて楽しそうに遊んでいる。幸津先輩は浜に入ってからというもの動かない。どうやら寒いらしい。なびく髪の毛を見ていると、旗でも掲げられた杭のようである。...
10月 5
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落ちてきた少女の考察 - 9月15日 1
今日は砂浜に来ている。前に行った灯台を挟んで商店街側の舗装をされた波止場側ではなく、大学側の方である。空には本当に秋になったのか怪しくさせる、実に夏らしい大仰な雲が遠くからもくもくと高くまで伸びていた。 ここに居るのは僕とアリスだけではない。幸津先輩と青梅さんも居る。幸津先輩の髪が海風になびいていてなんだか気持ちが悪い。 昨日の夜、月とはどういう場所だったのかと先輩が聞いてきた。想像以上にごつごつとしていて、ただそればかりが広がり、でこぼことしている。報告されている情報よりも多くの知らないことが起こり、それらを解き明かすことだけでも一苦労をしそうであった、と伝えた。 先輩は興味深そうにしていたが、それを確かめるにはどうしたらいいのかがまず解らない。とても歯がゆそうにしながら深夜遅くになっていることに気が付き、寝ているアリスを見ながら帰っていった。...
10月 4
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落ちてきた少女の考察 - 9月14日 5
そろそろ太陽の代わりに月が浮かぶ。今日もまた僕たちの姿が見えるのだろうかとぶつぶつ言いながら、先輩は大学の坂を降り真っすぐ帰路につき始めた。 考え事をしながら上を向いたり下を向いたりしながら歩いていると、星の観測高台の三叉路に着いて、そして目の前には僕たちが居た。 颱風屋ののれんが無いことに僕は驚いて辺りをきょろきょろと見回していた。アリスも同じ様子である。目の前に居る幸津先輩は目を丸くして、見てはいけないものを見ているような顔だ。 「どこに行っとった」 「えっ…あ、喋れる」 その時、周囲の音が聞こえるのがようやく解った。虫の鳴く声、どこかから威勢のいい声。近くで井戸端会議をするおばさんたちの話や川の音。地球に戻ってきたのかとたじろぐ僕に先輩はもう一度聞いた。 「どこに行っとったんや」...
10月 3
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落ちてきた少女の考察 - 9月14日 4
青梅さんは「不思議なお話です」と更に考える顔つきを深めた。 「でもどうやって月へ行ったのでしょう?」 「それが解らんなぁ」 先輩がそう呟いた所で、大学の坂を登り切った。難しいことを考えながら登ると堅牢な坂の攻略が容易いのである。 文学部のある一号棟は事務棟から左手の方に進む。事務棟まで辿り着いて、先輩は「月への行き方を考えとくわ」と右手の三号棟へと向かった。 天文学科は昨日遅くまで飲んでいたのもあるだろう、誰も居ないが特に変わったことではない。院生研究室の数室の扉だけが、「人が居ます」という雰囲気でしっかりと閉まっていた。 学科研究室壁面の本をおもむろに取り出し、月への行き方について調べる。アポロ計画の写真や、ルネックス計画などの無念ながら途中で倒れた計画の図面もある。要するにこの本は、月へ行きたければロケットを飛ばせと書いてある。他にめくった本も大体同じようなことが記されていた。...
10月 2
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落ちてきた少女の考察 - 9月14日 3
玄関には「大発見をした」というメモが昨日と変わらない状態で付いていた。ドアをノックするも、反応もない。天文学科の沢渡は一体どこへ行ったのだろうか。 先輩は暇になると学校の天文図書を読んで過ごすそうである。この日ももやもやとしながら、そうしようと考えた。メモを貼ったままにしてアパートを出ると、昨日に引き続き雲が少なく、清々しい青色が天井に広がっている。 太陽も遠い位置にあり、涼しくなってきたなぁと思いながら坂を下っていると、前の方に青梅さんの姿がある。「おうい」と先輩は呼んだ。 青梅さんは立ち止まり振り向いて、そしてにこやかに「おはようございます」と挨拶をした。 「いい天気ですね」 そうだなと挨拶をしながら、先輩は恐る恐る聞いた。 「沢渡という人間を知っとるか?」 「何をいってるんですか、沢渡くんは先輩と同じ科でしょう」...
10月 1
9月 2011
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落ちてきた少女の考察 - 9月14日 2
おハゲ教授とはつい最近話したばかりである。幸津先輩が片っ端から首根っこを掴んだ学科の人間がだれかは、幸津先輩が「よう知らんヤツ」としか言わないので誰か解らない。本当に僕のことを知らなかったのかもしれない。しかしおハゲ教授に知らないと言われたのはどういうことか。 先輩は月に人の影を発見したことをすっかり忘れて、僕の家に行った。もちろんその時僕は月へ到達した頃だったので、誰もいない。どこかで道草を食っているのかと思い、しょうがなく引き返すことにした。 「大発見をした」というメモだけ玄関に貼って、また星の観測高台へ向かって登ってきた坂道を下り始めた。辺りは暗く、既に商店街も照明を落としているので静けさに包まれている。虫の音が唯一響き、秋らしい様子であると思いながら、ふと正面を見やると星の観測高台の頂上が賑やかに眩い。宴会がまだ続いているのだ。...
9月 30
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落ちてきた少女の考察 - 9月14日 1
「いいですね!」という乾杯の音頭がとられたとき、幸津先輩は一人でのんびりと小屋の中で飲んでいたそうだ。研究茶会に来たがらない人間なので皆が飲み始めようが勝手に飲んでいても不思議ではない。あの夜は幸津先輩が小屋の中とはいえ、人前で飲んでいるのを初めて見たくらいだった。 飲みながらも先輩は、一人になってから再び大口径の望遠鏡を使い星を観ていた。スピカが見えなくなったので、少し月を観ようとぐるりと望遠鏡を動かした。南の高い位置に蒼白い光を気高く身に纏い、大きく輝く月はいつも以上に静かでしばらく魅入っていた。 やがて月に何やら観たことの無い影が見えはじめる。どうみても人であり、なんだか僕とアリスに見えたそうだ。この発見を面白がって僕に伝えようと、先輩は小屋を出た。そこに居る天文学科の人間は、誰一人として月を覗くものは居ない。月の綺麗なのに託つけてどんちゃん騒ぎをしたいだけなのだ。...
9月 29
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落ちてきた少女の考察 - 9月13日 4
ワクワクとしながら、アリスを見失わないように手を繋いで歩いた。アリスはなにか首を傾げて不思議そうな顔をしている。僕はといえば、不思議なことが起こりすぎているためか、この光をちっとも不思議と思わなかった。 そしてようやく赤い光の主の外観が見えてきた。金色でぴかぴかしていて、キャラメル箱のようにほぼ四角い形状をしている。その上部に赤い光を放つ電飾が並んでいて、一軒だけぽつりと建っている家のようである。 のれんが付いていて、そこには「颱風屋」と書かれていた。どこかで見たのれんである。そして急にお腹が空いてきた。 吸い寄せられるように颱風屋ののれんをくぐると、中はこぢんまりとしていて直ぐ目の前は、またもや豪奢で見ていると目が痛くなりそうな布のようなものであった。長椅子とテーブルが巧くあしらわれていて、それは木で出来ていた。...
9月 28
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落ちてきた少女の考察 - 9月13日 3
なだらかな下り坂を降りていくと、そこは海であった。さっきまででこぼこと開いていたクレーターが少しもない、大きな平原になっている。 海を歩いていると、前方から足元をいろんな色の紙吹雪のようなものが流れていく。しかし紙吹雪は体に触れる事無く、ふわふわと漂っているのだ。 眺めていると、歩いてきた方角からも紙吹雪が流れてきた。やがて衝突した二つの紙吹雪は穏やかに引く波のようにうっすらと姿を消した。 なんだったんだろうねとアリスと顔を見合わせると、アリスはしゃがんで紙吹雪を捕まえようとした。前方からふわふわと漂ってくる紙吹雪を両手で覆うように触りかけた時、またうっすらと姿を消すのである。 水の無い海を、代わりに波打っているようだ。次第に枚挙して押し寄せてくる紙吹雪ももともとあったかのように思えてきた。...
9月 27
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落ちてきた少女の考察 - 9月13日 2
隣でアリスが地球の方ではなく、別の方角の遠くを見ている。 真っ暗な空間はどこを見てもキラキラしている。あちらこちらで光っているのが全部星なのだ。宇宙という言葉が持つ森羅万象の意味を形象するように、満天の星空となっている。 あんまり星が綺麗なのでしばらく見とれていたが、息が出来るというおかしな事に気が付いた。 真空のはずの宇宙空間で息が出来るというのは大発見である。息が出来るのは凄い事なのだと驚いてアリスに伝えようとしたが、声が出なかった。 いや、声が出ないのではなく、真空なので音が響かないのであろう。宇宙空間で音が響かないのは至極当然の事である。ではなぜ息が出来るのか。ぐるぐると出来る出来ないが頭の中で回り、この意図に反した結論を推論するのは今までの不可思議な現象と同じくらい無理があると判断した。 立ち上がって歩いて見ると、少し体がふわふわとする。...
9月 26